東京高等裁判所 平成11年(行コ)141号 判決 1999年12月22日
原審甲事件控訴人兼原審乙事件控訴申立人
西神テトラパック株式会社
(原審甲事件原告兼原審乙事件被告補助参加人)
右代表者代表取締役
柚木善清
右訴訟代理人弁護士
八代徹也
原審甲事件被控訴人兼原審乙事件控訴人(原審甲、乙事件被告)
中央労働委員会
右代表者会長
花見忠
右指定代理人
菅野和夫
同
吉住文雄
同
西野幸雄
同
山下陽
原審甲事件被控訴人補助参加人兼原審乙事件被控訴人
全日本金属情報機器労働組合西神テトラパック支部
(原審乙事件原告兼原審甲事件被告補助参加人)
右代表者執行委員長
工藤雄二
原審乙事件被控訴人(原審乙事件原告)
工藤雄二
右両名訴訟代理人弁護士
生駒巌
同
森賀幹夫
同
鴨田哲郎
同
羽柴修
同
本上博丈
同
松本隆行
主文
一 本件各控訴をいずれも棄却する。
二 控訴費用は、参加によって生じたものを含め、原審甲事件控訴人兼原審乙事件控訴申立人の負担とする。
事実及び理由
(本判決においても、当事者等については、原判決の「事実及び理由」欄において用いられているのと同一の略称を用いることとする。)
第一当事者の求めた裁判
一 会社の控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 原審甲事件被控訴人中央労働委員会が中労委平成六年(不再)第四五号事件について平成九年五月七日付けでした命令のうち、主文Ⅰの1ないし3及びⅡを取り消す。
二 会社並びに組合及び工藤の本訴各請求の趣旨
原判決の「事実及び理由」欄の「第一 請求」の項の記載のとおりである。
第二本件事案の概要
一 原判決の記載の引用
本件事案の概要(前提事実、主たる争点及び当事者の主張)は、次項のとおり補充を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」の項の記載のとおりであるから、この記載を引用する。
二 原判決の記載の補充(会社の補充主張)
1 本件配転について
本件配転が労組法七条一号にいう不利益取扱いに当たるか否かは、当該職場の従業員の一般的認識に照らして本件配転が不利益なものと受け止められるようなものであるか否かという基準によって判断されるべきではない。このような基準によって配転命令が不利益取扱いに当たるか否かが判断されるものとすれば、例え当該配転命令に必要性や合理性が認められる場合であっても、当該職場の従業員の一般的認識がこれを不利益なものと受け止めるものである以上、当該配転が不利益取扱いに該当するものとされるという不合理な結果とならざるを得ないからである。
また、本件配転は、工藤の給与上の等級や地位、身分に何らの変更をも加えるものでなく、不利益を一切伴わない、単なる平行異動ともいうべきものである。このような配転を行うに当たっての業務上の必要性について、客観的かつ高度の必要性の存在を要求することが相当でないことは明らかなところである。会社においては、組合員であると非組合員であるとを問わず、主たる職場である製造現場への配転という事態は、常態ともいうべき事態であり、工藤の所属していたプロジェクトチームが解散したことに伴って行われた本件配転については、他部門への配転を行うこと自体に業務上の必要性があったことは明らかであり、しかも、工藤については電気係としての適性があるものとはいえないのであるから、製造現場を配転先とした本件配転について、会社側において配転権の濫用があったものとすることは到底できず、したがって、これが不当労働行為とされる余地はないものというべきである。
2 本件各文書の配布及び秋山発言について
使用者にも労働組合と同様の言論の自由が認められるべきことは当然であり、そうすると、使用者の言論活動が組合に対する支配介入として不当労働行為に当たるとされるのは、結局、当該言論の内容に虚偽の事実が含まれているとか、組合に対する誹謗、中傷や威嚇、報復、利益誘導が含まれているという場合に限られるものというべきであり、また、その方法についても、組合側の言論活動の場合と同様、従業員全員に対する文書の配布等の方法が許されないものとすべき根拠はないものというべきである。
このような考え方を前提とすると、本件各文書の配布及び秋山発言は、いずれも言論の自由の範囲内の行為として許容されるものというべきであり、組合に対する支配介入として不当労働行為視されるべきものではないというべきである。
第三当裁判所の判断
一 総説
1 原判決の説示の引用
当裁判所も、本件配転、本件各文書の配布及び秋山発言並びに平成五年四月ころ及び平成六年二月ころの各脱退勧奨行為は、いずれも会社の不当労働行為に該当するものと判断するが、その理由は、次項のとおり訂正を加えるほかは、原判決が「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」の項で説示するところと同一であるから、この説示を引用する。
2 原判決の説示の訂正
(一) 争点2(本件配転につき不当労働行為の成否)について
原判決四九頁八行目に「(証拠略)」とあるのを「(証拠略)」に、同六一頁九行目に「(<証拠略>)」とあるのを「(<証拠略>)」に、同六二頁八行目から九行目にかけて「これを認めるに足りる明白な証拠はない。」とあるのを「昭和六一年二月二八日の時点で、担当者から工藤が予め届け出ていた有給休暇期間が経過した後もなお無届けで三日間欠勤している事実を報告する書面(<証拠略>)が提出されていることが認められるが、その後この無届欠勤期間についてどのような処理がされたかのてん末を明らかにする証拠はない。」に、同六五頁九行目に「人員不足を埋めたこと」とあるのを「人員不足を埋めたこと、さらに、同年一〇月ころ、工務課電気係に所属する従業員三名が退職した際には、外部からの派遣社員でその後を補充していること」に、同七一頁一行目に「不利益な取扱いをする」とあるのを「不利益に取り扱う」にそれぞれ改める。
(二) 争点3(本件各文書の配布及び秋山発言についての不当労働行為の成否)について
原判決七三頁四行目から同七四頁四行目までを、
「このような内容の本件文書(一)の配布行為は、会社が組合の活動方針に関する執行部の指導の仕方を強い調子で非難し、それによって、組合活動に関する執行部の指導方針等に対する組合員の不信感をあおるとともに、執行部と組合員間の離間を図ろうとしたものと見ざるを得ず、組合の運営に対する支配介入行為に当たるものというべきである。」
に、同七四頁六行目に「妥結した後」とあるのを「妥結した前後」に、同七六頁八行目に「賞与」とある部分から一〇行目末尾までを「労使の交渉が難航して生じた賞与の支給の遅れの責任があたかも専ら組合執行部のみにあるかのような表現で、組合執行部の指導方針等に対する組合員の不信感を煽る(ママ)とともに、執行部と組合員間の離間を図ろうとしたものと見ざるを得ず、組合の運営に対する支配介入行為に当たるものというべきである。」に、同七七頁四行目に「(証拠略)」とあるのを「(証拠略)」に、同七八頁四行目に「組合の意思決定に介入するものと言わざるを得ない。」とあるのを「組合執行部の指導方針等に対する組合員の不信感をあおるとともに、執行部と組合員間の離間を図ろうとしたものと見ざるを得ず、組合の運営に対する支配介入行為に当たるものというべきである。」に、同七九頁九行目から一〇行目までを「ことについて、各組合員を威嚇することによってそれを思いとどまらせ、あるいは、そのための活動を萎縮させようとしたものと見ざるを得ず、組合の運営に対する支配介入行為に当たるものというべきである。」にそれぞれ改める。
(三) 争点4(平成五年四月ころの脱退勧奨の有無及び右事実についての不当労働行為の成否)について
原判決八一頁四行目に「(証拠略)」とある次に「(証拠略)」を、「(証拠略)」とある次に「(証拠略)」をそれぞれ加え、同八一頁一一行目に「同月中旬」とある部分から同八二頁一行目末尾までを削除し、同八行目の次に行を改めて
「(3) 組合の執行委員木野聡は、同年四月二一日、大坪義轄課長から、「元上司として言うけど、執行委員長について行ってはいけない。組合はどうするんや。」と言われた。」
を加え、同八三頁二行目に「なお、」とある部分から七行目までを削除する。
二 補説
なお、会社の主張にかんがみ、いくつかの論点に関する当裁判所の判断を補足的に示しておくと、以下のとおりである。
1 本件配転が不利益取扱いに当たるか否かの判断基準について
会社は、本件配転について、これが何らの不利益を伴わないものであり、また、業務上の必要等に基づくものである等として、これが不当労働行為としての不利益取扱いに当たらないとする理由を縷々主張する。
しかしながら、労法七条一号が組合活動等を理由とする不利益取扱いを不当労働行為として禁止している理由が、このような不利益取扱いが労働者らによる組合活動一般を抑制ないしは制約する効果を持つという点にあることからすれば、本件配転が不利益なものといえるか否かは、前記引用に係る原判決の説示にあるとおり、当該職場における職員制度上の建前や経済的側面のみからこれを判断すべきものではなく、当該職場における従業員の一般的認識に照らしてそれが通常不利益なものと受け止められ、それによって当該職場における組合員らの組合活動意思が萎縮し、組合活動一般に対して制約的効果が及ぶようなものであるか否かという観点から判断されるべきものというべきである。そして、このような観点からすると、本件配転が会社の従業員の一般的認識に照らして不利益なものとして受け止められるのが通常であるものと推認できることは、前記引用に係る原判決の説示にあるとおりである。
また、会社は、本件配転に業務上の必要性、合理性が認められ、会社側に配転権の濫用があったものとはいえないから、本件配転が不当労働行為には該当しないものであると主張する。しかし、労組法が不利益取扱いを不当労働行為として禁止している趣旨が前記のようなところにあることからすれば、本件配転が会社側の配転権の濫用により私法上違法、無効とされるものであるか否かの判断がそのまま不当労働行為の成否の判断につながるものでないことはいうまでもないところである。むしろ、仮に会社側に不当労働行為意思がなかったとすれば配転先として別の部門が選ばれたであろうことが認められ、しかも、従業員の一般的認識に照らして、その部門への配転に比して現に選ばれた配転先への配転が不利益なものと受け止められるものである場合には、そのこと自体からして、当該配転行為について不当労働行為の成立が認められるものというべきである。そして、このような観点からすると、工藤を工務課電気係ではなくドクターマシン部門に配転した本件配転が不当労働行為を構成するものと認められることは、前記引用に係る原判決の説示にあるとおりである。
2 会社の言論活動の自由と支配介入の成否について
会社は、労働組合について認められるのと同様の言論の自由が使用者にも認められるべきであり、本件各文書の配布及び秋山発言は、そのような使用者側の言論の自由の行使として許容されるべきものであると主張する。
確かに、使用者側にも言論の自由が認められることはいうまでもないから、一般論としていえば、使用者が組合活動の在り方を批判する内容の言論活動を行うことも、言論の自由の一環として許容されているところというべきである。しかし、労組法七条三号が使用者が労働組合の運営等を支配しこれに介入することを不当労働行為として禁止していることからすると、この使用者側の言論の自由には一定の限界があるものといわざるを得ず、使用者側の言論の内容、それが行われた状況等に照らして、労働組合の運営等に対する不当な支配介入行為に当たるとされるような使用者の言論活動は、不当労働行為として禁止されているものというべきである。特に、労働組合の自主性が尊重されるべき組合内部の運営に関する方針決定の在り方等について具体的な働きかけを行うような言論活動については、それが使用者側の単なる意見表明や組合側への協力要請の域を超え、組合員を威嚇し、あるいは動揺させたりする態様のものである場合には、不当労働行為の成立が認められることとなるものといわなければならない。
このような観点からすると、本件各文書の配布及び秋山発言は、前記認定のとおり、いずれも、組合執行部の指導方針等に対する組合員の不信感をあおることにより執行部と組合員間の離間を図ろうとしたもの、あるいは、組合員を威嚇することによって組合活動を萎縮させようとしたものと見ざるを得ず、使用者側に保障されている言論の自由を考慮に入れても、なお、組合の運営に対する支配介入行為として不当労働行為を構成するものといわざるを得ないところである。
第四結論
以上によれば、原判決は相当であるから、本件各控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 増山宏 裁判官 合田かつ子)